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京都地方裁判所 昭和49年(行オ)1号 判決 1974年8月30日

京都市左京区下鴨梅ノ木町六二番地

再審原告

正木啓一郎

右訴訟代理人弁護士

山田常雄

京都市左京区聖護院円屯美町一八番地

再審被告

左京税務署長

尾原栄夫

右再審被告指定代理人

棚橋且高

久下幸男

山下功

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地

再審被告

右代表者法務大臣

中村梅吉

右再審被告両名指定代理人

井上郁夫

山口一郎

関襄

鳴海雅美

主文

本件再審の訴を却下する。

再審訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  再審原告

1  京都地方裁判所が、同庁昭和四六年(行ウ)第一五号所得税更正決定処分取消等請求事件について、昭和四九年一月二五日言渡した判決はこれを取消す。

2  再審被告左京税務署長が、昭和四四年七月二八日付で再審原告の昭和四三年度分所得税についてした更正処分のうち総所得金三八七万九、四二三円、税額金八六万三、三〇〇円をこえる部分はこれを取消す。

3  再審被告国は再審原告に対し、金一二五万四、九〇〇円及び内金一〇万円に対する昭和四四年一〇月一日から、内金三〇万円に対する同年一一月一日から、内金三〇万円に対する同年一二月一日から、内金三〇万円に対する昭和四五年一月一日から、内金一九万五、二〇〇円に対する同年二月一日から、内金五万九、七〇〇円に対する同年三月一日からいずれも支払済に至るまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は再審被告らの負担とする。

5  第三項につき仮執行宣言。

二  再審被告ら

主文同旨

第二当事者の主張

一  再審原告

1  京都地方裁判所は、昭和四九年一月二五日、再審原告を原告とし再審被告らを被告らとする同庁昭和四六年(行ウ)第一五号所得税更正決定処分取消等請求事件について、再審原告敗訴の判決を言渡し、右判決は上訴期間の経過により確定した。

2  しかし、前記確定判決には次のような再審事由がある。

(一) 右判決は理由第二項の4において、改正前の租税特別措置法施行令第二五条の六第一項にいう「不動産の貸付その他これに類する行為」とは、第三者のために当該不動産に対する用益的権利を設定し、その対価を得る行為を意味すると述べて、通達(昭和三八年九月一四日直審七九-四一)と同じ解釈をとつている。

しかし、不動産の利用方法は、これに用益物権を設定し、又は債権により使用収益する場合に限られず、これを担保として利用し金融を得ることによつて、より大きな社会的経済的効用を果しうる場合がある。しかるに、右判決は、事業用資産を用益的権利に関するものに限定する根拠を、なんら判示しておらず、この点に判断の遺脱がある。

(二) また、右判決は理由第四項において、被告国に対する請求に対し「本件更正処分および過少申告加算賦課決定処分が違法であることを前提とする請求は、右各処分が適法であると認められる以上その余の点について判断するまでもなく失当である」と判示している。

しかし、租税の賦課処分と滞納処分とは全然別個の手続に属する行政処分である。すなわち、賦課処分は納税義務を確定させることを目的とする処分であるのに対し、滞納処分は確定した納税義務を強制的に履行させることを目的とする処分であつて、両処分は明らかに目的を異にしている。したがつて、賦課処分の違法が、当然滞納処分の違法を招来するものとはいえないのと同様は、賦課処分が適法であるから滞納処分に違法はないと即断することはできない。原審で原告は滞納処分が違法であると主張したのみで、その内容に関する主張をしなかつたが、このような場合裁判所は、釈明によつて右処分の違法内容に関する主張を明らかにしたうえでなければ、滞納処分の適否についての判断ができないはずである。ところが裁判所はこの点についての釈明義務を怠り、更正処分等の賦課処分が適法であるから滞納処分も適法であるかの如き、表現をしているが、これは滞納処分の違法に対する判断遺脱である。

二  再審被告ら

1  (本案前の主張)

再審原告は昭和四九年一月二九日に原審判決正本の送達を受けているのであるから、その時に判断遺脱の事実を知つたものと解すべきであつて、再審原告は右判決に対し上訴しなかつたから、結局再審事由を知りながら上訴によって、これを主張しなかった場合に該当する(民事訴訟法四二〇条一項但書後段)ので、本件再審の申立は不適法であるから却下すべきである。

2  (本案に対する答弁及び主張)

再審原告主張の1の事実は認める。

同2(一)については、原審判決の理由第二項の4において当該法律の解釈についての裁判所の判断を判示しており、また同(二)については原審判決の理由第四項において滞納処分の適法性につき再審原告の主張に対応した判断を判示しているので、原審判決には判決に影響を及ぼすべき重要なる事項について判断の遺脱があるとはいえない。

理由

一  京都地方裁判所が昭和四九年一月二五日再審原告を原告とし、再審被告らを被告らとする同庁昭和四六年(行ウ)第一五号所得税更正決定処分取消等請求事件につき言渡した再審原告敗訴の判決が、上訴期間の経過により確定したことは、当事者間に争いがない。

二  ところで、再審原告は、右判決には民事訴訟法四二〇条一項九号所定の再審事由たる判断遺脱がある旨主張するが、右再審事由は当事者が判決正本の送達を受けこれを一読すれば容易にその存在を知り得るものであるから、特段の事情のない限り判決正本の送達を受けた時にこれを読んで右再審事由の存在を知ったものと解すべきであり、さらに民事訴訟法四二〇条一項但書後段にいう「之を知りて主張せざりしとき」のなかには当事者が再審事由のあることを知りながら上訴を提起しなかった場合をも含むと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、昭和四六年(行ウ)第一五号事件記録中の郵便送達報告書によれば、同事件判決の正本は、昭和四九年一月二九日再審原告訴訟代理人奥村文輔に送達されている事実が認められ、右事実によれば、再審原告は右送達のあつた時に所論判断遺脱の再審事由があることを知つたものというべきであり、この認定を妨げるような特段の事情が存在したことを認めるにたる証拠はない。

そうすると、再審原告は、右判決に所論判断遺脱のあることを主張して上訴を提起し、この点について上級審の判断を受けえたものというべきところ、これをなさず上訴期間の経過により右判決を確定させたのであるから、民事訴訟法四二〇条一項但書後段にいう「之を知りて主張せざりしとき」に該当するので、本件再審の訴は不適法であることを免れない。

三  よつて、再審原告主張の再審事由が存在するか否かにつき判断するまでもなく、本件再審の訴は不適法なものとして却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 谷村允裕 裁判官 安原清蔵)

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